江戸時代そのままに今も人が暮らす宿場町
会津と日光を結ぶ会津西街道。
江戸時代には、会津以北の各地と江戸を結ぶ重要な街道として栄えたこの道の、会津若松からおよそ15kmほど南に、
大内宿という小さな宿場町があります。
この宿場町が、白川郷と並ぶほど古き良き日本の風景をそのままに残しているんです。
集落を南北に貫く街道の両脇には、40軒ほどの茅葺き屋根の民家が並び、まるで時代劇のセットの中に迷い込んだよう。
道路はアスファルトで舗装されておらず、水路を覆う蓋も木を使っています。
そして、メイン通りからは、日本ならではの電柱と電線が見えないように配慮されていて、可能な限り「近代の匂い」が排除されています。
でも、大内宿での滞在そのものは不便なわけではありません。(アクセスは不便ですけど)
しっかりと観光地として整備はされているのに、商業化はされておらず、素朴さを残しているのが魅力的です。
どの季節にも魅力的な表情がある
また、四季折々で宿場町の表情が変わるのもこの集落のいいところ。
例えば春。
大内宿の中には桜が多くありませんが、所々に咲く桜の花と茅葺きの家並みはやはり1度は見ておきたい風景です。
例年4月の下旬頃が見頃のようです。
また同じ時期、大内宿の最寄り駅である「湯野上温泉駅」では、線路沿いの桜が見頃を迎えます。
これがまた見ごたえがあるんです。
茅葺屋根の駅舎でと桜並木。
その風景の美しさを楽しむために多くの観光客が訪れます。
また夏になると、集落の中を流れる水路で冷やされる野菜やラムネが涼を感じさせてくれます。
こんな風景、子供のころから1度も体験したことないのにどこかノスタルジーを感じてしまう自分の心が、またちょっと面白いです。
ちなみにこの飲み物は、お店の人に声をかければ買うことができます。
冷蔵庫で冷やしたのとは一味違う冷たい飲み物を味わえますよ。
ここ大内宿が、水が豊かでキレイだからこそ可能な体験です。
そして山肌が錦に染まる秋は、大内宿が1年で一番の賑わいを見せる季節です。
茅葺屋根からたなびく囲炉裏の煙と、その向こうに見える木々の彩りは、まさに日本の秋という風景です。
10月中旬から11月中旬にかけては大内宿を訪れる人も多く、車は大混雑なので、
朝10時より前に大内宿についてしまうのがおすすめです。
もちろん、冬だって魅力的。
山あいの集落なので、12月には雪が降り始め雪景色になります。
冬の間は空いているお店も減り、訪れる観光客も少なくなりますが、
家の軒先で干される大根など、観光地じゃない大内宿の側面を見ることもできます。
また、雪の時期には大内宿雪まつりが開催されます。
雪まつりとは、夜になると、その雪灯篭に明かりが灯されます。
茅葺き屋根にこんもりと降り積もった雪と雪灯篭のやわらかな光が幻想的で、これまたおすすめなんです。
大内宿の歴史
大内宿は、江戸時代は会津から日光へと続く「会津西街道」の宿場町として栄えました。
街道を整備したのは、名君と名高い保科正之。 江戸幕府三代将軍徳川家光の異母弟です。
参勤交代の通り道として、また江戸へ運ばれる年貢米や特産物の運搬路として重要な役割を果たしていました。
明治以降、政府が進める近代化政策により、整備されたのは、会津西街道ではなく阿賀川沿いの道でした。
そのため大内宿は、周囲から隔絶され近代化のみならず、第二次世界大戦後の高度経済成長からも取り残された集落になってしまったのです。
(一説には、明治政府に最後まで抵抗した会津地方への嫌がらせという話さえあります)
しかし山あいの集落は、経済成長から取り残されたがゆえに、
江戸時代の面影が色濃く残る宿場町として、多くの観光客から注目をあつめることになったんです。
それでも1970年代には近代化の波が押し寄せ、茅葺屋根がトタン屋根に葺き替えられたり、道路が舗装されたりと町並みが変貌しました。
しかし、村の人々が自ら保存活動をすることによって、伝統的な茅葺き屋根が復活し、昔ながらの家並みが維持されているんです。
大内宿へのアクセス
そんな山奥の集落だけに、大内宿へのアクセスはなかなか大変。
電車なら浅草から在来線を乗り継ぐ南回りのルートか、東京駅から新幹線で郡山まで行き、会津若松から下る北回りのルートかの2つ。
これが両方共およそ3時間半かかります。
でも、個人的には在来線のルートのほうがおすすめです。
というのは、今市から先は、会津鬼怒川線、野岩鉄道、会津鉄道とローカル鉄道の線路を通っていくのですが、
まずその面倒臭さこそが、この「大内宿」という集落の本質を構成する一部だから。
時間をかけてローカル線に揺られて、ようやくたどり着いた先に、江戸時代そのままの風景が残っているという達成感を、ぜひ楽しんで欲しい。
それに加えて、道中のそれぞれの町や駅もなんとも個性的なんです。
鬼怒川温泉あたりは有名な観光地ですが、平家の落人集落の一つと言われる「湯西川温泉」や、美しい渓谷美を楽しめる「塔のへつり」。
駅舎がなんと茅葺き建築という「湯野上温泉駅」(大内宿の最寄り駅)などなど、
途中下車を楽しみながら大内宿を目指すというのもぜひおすすめしたいです。
ちなみにこの湯野上温泉駅、
駅舎の中には無料の足湯もあるので、ぜひ長時間の列車旅の疲れを癒やしてください。
鉄道の場合は(なぜ電車じゃなくて鉄道かって言うと、野岩鉄道も会津鉄道も電化されていないから!)
湯野上温泉駅から乗合バスかタクシーになりますが、およそ10分ほどなのでバスの時間が合わなければタクシーに乗ってしまいましょう。
大内宿をめいっぱい楽しむ!おすすめルート
まず降り立つのは、宿場町入り口の駐車場。
駐車場の中に小さな小屋があります。ここが大内宿観光協会・案内所なのでまずはここに寄りましょう。
①パンフレットを入手
大内宿観光協会の案内所でパンフレットを入手しましょう。
奥まった場所にあるお店や、メイン通りの裏側にあるお店もあるため、パンフレットは散策のお供としてとても役に立ちます。
パンフレットを手に入れたら、いよいよ宿場町の中へ。
駐車場から100mほど歩いていくとポツポツと右手に古い家が見えてきます。左手は田園風景。
この段階でもうすでに風情があって「おお!」という気分で盛り上がってきます。
僕が行った時は、秋だったのですが、軒先に干し柿がぶら下がっていて(演出だったのかもしれませんが)「ああ、いいなあ」と思いました。
そして、ゆるいカーブの先に、いきなり宿場町が登場します。
②茅葺き屋根の民家を巡る
全長約1Kmのまっすぐな土の街道の両脇に、ズドーンと立ち並ぶ茅葺き屋根の民家。
そして、家の前には街道を挟むように澄んだ水の流れる水路。
それぞれの家の前には、魚や団子を炭火で焼いて売る売店。
はるばる山を越えて歩いてきた江戸時代の旅人のような気持ちに浸れます。
宿場町をそぞろ歩きましょう。
手前から奥に向かって緩やかに上り坂になっていますが、それほど疲れずに散策を楽しめます。
この家がセットじゃなくて、皆さんいまも暮らしているということが本当に驚きです。
宿場町には裏通りもあるんですが、そちら側に回ると、意外と近代的な作りになっているんで、
表を十分楽しんだらそちら側を見てみるのも楽しいかもしれません。
③高倉神社
表通りを歩いていくと、宿場町の中ほど、左手に立派な鳥居が現れます。
これが大内宿の守り神である「高倉神社」の一の鳥居。
ちょっと寄り道をしてみましょう。
一の鳥居から5分ほど進むと、二の鳥居が見えてきます。
周りには美しい田園風景が広がり、大内宿のメイン通りとはまた違う自然の風景を楽しむことができます。
そのさらに奥にひっそりと佇むのが高倉神社。
11世紀に当時の権力者、平清盛に反旗を翻して破れ、落ち延びる途上で大内宿に逗留したと言われる以仁王を祀っています。
④街並み展示館
高倉神社の一の鳥居の少し奥にあるのが、街並み展示館。
かつての本陣跡に宿駅時代の本陣を再建したもので、当時の風習を伝える写真や生活用具などが1300点ほど展示されています。
当時の暮らしを実際に見て、歴史を知ることで、この後の大内宿をより楽しむことができと思います。
・開館時間 午前9時~午後4時30分
・入場料 大人250円、小人150円
団体 (30人) 大人200円、小人100円
さらに奥へと向かえば、宿場町の突き当たりにあるのが「浅沼家」。
かつては宿場町の「見張り場」だったそうですが、いまは食堂になっています。
そして、この裏手にあるのが、大内宿のハイライト。
⑤見晴台
大内宿の中でも絶好の撮影スポットとして知られるのが、宿場町の一番奥にある見晴台です。
少し急な階段を登らなくてはなりませんが、ここからは、街道沿いに並ぶ茅葺き屋根の民家が一望できます。
見えるのは自然と茅葺の屋根だけとあって、本当に江戸時代にタイムスリップしたような気分に浸れます。
ちなみに、見晴台にある「子安観音」は女性や子供の守り神とされ、子宝や安産祈願にご利益があるといわれています。
大内宿は食べ物もはずせない
・高遠そば(ねぎそば)
高遠というのは、長野県伊那地方の地名から来ています。
というのも、大内宿のある会津松平藩の初代藩主であった保科正之は、もともと高遠藩を治めていた人で、
東北地方に転封されたときに、そば職人も一緒に連れてきたのだそう。
でそば食が定着したということにあやかっての「高遠そば」なんです。
高遠そばの条件は「つゆに辛味大根の汁を使う」ということなんですが、そんななかでもちょっと変わっているのが「ねぎそば」。
といってもネギがたっぷり乗ったそばとかいうわけではなく、長ねぎを箸代わりにして食べるそばなんです。
箸に比べて非常に食べづらいんですが、ネギを薬味としてかじりながら食べるという一石二鳥な感じが楽しいおそばです。
ちなみに長ネギを箸代わりに使う理由は、この地方では「小さいお椀にねぎを挿して、子孫繁栄を願う」という風習があったのに発想を得たんだそう。
大内宿の中には、このスタイルで食べさせるお店がいくつかありますが個人的なオススメは「石原屋」。
かつては脇本陣だったということもあり、建物自体に非常に趣があるんです。
もちろん手打ちの蕎麦は香りも高く、そばそのものも非常に美味しいです。
ねぎそばは950円です。
・しんごろう
半つきにしたご飯をにぎって串に刺し、じゅうねん味噌(エゴマで作る甘味噌)を塗って炭火で焼いた郷土料理。
香ばしい香りともちもちの食感がたまりません。
これを片手にブラブラ食べ歩きがおすすめ。
いくつか売っているお店があるので、お好みでどうぞ。
値段は大体、1本250円(税込)です。
大内宿の大イベント「雪まつり」
例年2月の第2土・日曜日に開催される「大内宿雪まつり」。
もともとは集落の神事で、30数年前に観光客も参加できるイベントになったそうです。
昼間には、そば食い競争や仮装大会、丸太早切り競争などが行われます。
ちなみにどれも、開始30分前くらいまで受付をしているそうなので、観光客でも飛び込みで参加可能です。
お祭りのメインイベントは夜。
街道沿いに作られた雪灯篭に火が灯され、大内宿全体が幻想的な雰囲気に包まれます。
そして、夜5時頃から始まる神事。
大内宿の裏手にある高倉神社の祭壇から御神火を頂き、下帯姿の村の男性たちが集落を走り抜け、本陣前の松明に火を灯します。
その後、6時からは花火大会。
冬の夜空に打ち上がる花火が、雪の大内宿を照らし出す、ここでしか見られない風景を芽にすることができます。
1年を通していつ訪れても美しい場所ですが、
限られた日にしか目にすることができない、貴重な雪の風景は特におすすめです。