奈良は大仏だけじゃない
奈良の観光に携わる人と話をすると、みなさん必ず言うのが「来てくれる人はみんな、大仏と興福寺だけ見て日帰りなんだよね…」
確かに、京都に比べると見どころが少ないし、なにせホテルや飲食店も少ない。
京都を拠点に日帰りで済ませてしまおうという考えは解ります。
でも奈良の街は、決して「東大寺」と「興福寺」だけじゃない!
というわけで、今回はそんな奈良の街でぜひ見ていって欲しいお寺「元興寺」をご紹介します。
元興寺とは?
元興寺があるのは、近鉄奈良駅の南側「ならまち」と呼ばれる古い家並みが立ち並ぶエリアの一角。
住宅街の中にこぢんまりとあるので見逃しそうになりますが、入り口のところには「世界遺産」と書いた看板もあるので気づけると思います。
元興寺は、奈良県の飛鳥村にあった、日本最初の仏教寺院「法興寺(現 飛鳥寺)」が前身です。
710年、飛鳥から奈良に都が移された時に法興寺は解体されて奈良に立て直されました。
当時の法興寺は、現在の元興寺よりもかなり大きく、南北およそ440m、東西は220m近くあったそうです。
その後、室町時代(1451年)に火事で燃えてしまい、焼け残った一部が現在の元興寺として残ったのです。
奈良時代そのままが今も残る
元興寺の主要部分は、極楽堂本堂(国宝)と禅室(国宝)の2つ。
これはもともと焼けてしまう前の法興寺の僧坊(お坊さんの居住スペース)だったそうです。
本堂は、僧坊に外側を付け加え少し広くしてありますが、禅室は当時のまま。
つまり、禅室と本堂の殆どは1300年前そのままの姿が残っているんです。
というわけでこの建物、現在も現役で使われている木造建築物の中で日本最古のものということなんです。
これこそが、国宝そして世界遺産に指定された理由です。
奈良には、この元興寺以外にも、唐招提寺や法隆寺など1300年近く前から建つ建築物が多く残ります。
例えば京都の街も古い寺社仏閣や家並みで知られていますが、あれはほとんどが江戸時代以降に建てられたものなんです。
なぜ、奈良には古い建物が残っているのか?
その理由は、710年から、およそ70年ほどしか都でなかったことにあると言われています。
都として整備されて、さまざまな建物が作られたものの、その後政治の中心から離れたために、大規模な戦火を免れることができた。
その御蔭で、歴史ある建築物が数多く残っているんです。
元興寺を見て回る
まずはなんと言っても、極楽堂本堂。
元興寺の主要な入り口である東門から境内に入ると、本堂が目に飛び込んで来ます。
この本堂、正面から見ると柱が7本ならんでいますが、中央寄りの5本分までが、もともとの僧坊部分。
その両側に柱1本分ずつを加えて本堂としているんです。
なので、中央寄りの部分が奈良時代からの建物ということ。
奈良の街並みは、なんというか他の街に比べて大らかな雰囲気が漂っていると思うんですが、それは建築物にも言えると思います。
元興寺の屋根の曲線とかも緩やかで、優美さを感じさせてくれます。
まずは、そんな大らかな雰囲気を味わってもらいたいと思います。
本堂の外側を堪能したら、続いて本堂の中にもお邪魔しましょう。
本堂の中は、中央にお寺の本尊である智光曼荼羅が飾られています。
智光曼荼羅というのは、8世紀に元興寺にいた智光という僧侶が、夢に見た「極楽浄土」を絵で表したもの。
本堂に飾られているのは、江戸時代に描かれたものだそうです。
他にも元興寺には、国指定重要文化財である「智光曼荼羅厨子」「板絵 智光曼荼羅」などが収蔵されていて、秋には期間限定で公開されています。
曼荼羅も必見なんですが、極楽堂の建物の中も忘れずに見てください。
1300年前の木造建築がそのまま残っていることに、ぜひ驚いてください。
極楽堂を出たら、その奥にある禅室へ。
こちらは外から見るだけです。
でも隣の極楽堂を見比べることで、もともと僧坊として、この2つの建物がつながっていたことを実感できると思います。
そして、この2つの建物を外から見るためのビュースポットがあるので、そこは絶対に忘れずに!
日本最古 飛鳥時代の瓦
極楽堂と禅室の横に、ずらりと並んだ石塔・石仏があります。
この石塔のあいだの細い道の行き止まりがそのビュースポットです。
そこから振り返ると禅室、極楽堂の建物と屋根が見えますが、これが他では見ることのできない貴重な風景なんです。
というのも、ここから見える、禅室、極楽堂の屋根に乗っている瓦が、現存する日本最古の瓦だから。
他の部分の瓦に比べて、赤みがかった瓦が並んでいる部分があるのがわかると思います。
この瓦は、法興寺(現 飛鳥寺)から移設された当時のもので、
江戸の終わり頃から元興寺が荒廃するにつれて、屋根から落ちたりして敷地内に散逸していました。
それを、昭和初期に元興寺の住職となった、辻村泰圓(つじむらたいえん)が集め、屋根に敷き直したのだそうです。
このビュースポットからの風景は、桜の時期には「影向桜」(ようごうざくら)と名付けられた桜と一緒に飛鳥時代の瓦を眺めることができます。
これが絶景。
もちろん他の季節でも、それぞれ美しい風景を楽しむことができるので、ぜひ歴史を感じる風景を楽しんでください。
収蔵庫も忘れずに訪れたい
極楽堂と禅室を見たらもう終わり、と思ってしまうかもしれませんが、敷地の南側にある法輪館と名付けられた収蔵庫も忘れずに見ていきましょう。
この中には、元興寺に伝わる仏像や、資料が収蔵されていて間近で見ることができます。
さまざまなものが飾られていますが、中でも必見なのが法輪館に入ってすぐ目の前に立っている五重小塔。
これは国宝にも指定されています。
この五重小塔、高さは5.5m。奈良時代後期に制作されたもの。
そして、何がすごいって建築的に本当の「五重塔」を縮小したものなんです。
…ちょっとわかりにくいですね。
つまりこの五重小塔を拡大すると、そのまま建物の五重の塔として使用できるということなんです。
そのため、この五重小塔は「美術品として」ではなく「建築物として」国宝指定されているそうです。
間近で見ると、本当に細かいところまで丁寧に作り込まれていて、見ていて飽きることがありません。
果たしてこの精巧な五重小塔がなんのために作られたのか、目的ははっきりとはわかっていないのだそう。
仏舎利をおさめるためとか、大きな五重塔を作るための模型としてとかいろいろな説があるそうです。
残念ながら法輪館の中は写真撮影が禁止なので、この圧倒的なミニチュア建築物をしっかりと記憶してください。
決して大きなお寺ではない元興寺ですが、コンパクトな敷地の中に見どころは満載です。
さらに、元興寺の周りには「ならまち」と呼ばれる、古い家並みが立ち並ぶ風情のあるエリアもあります。
奈良の街は、「東大寺」と「興福寺」だけじゃない!ということがわかってもらえたでしょうか?
ぜひ奈良の街の奥深さに触れてもらえたらと思います。