永平寺の魅力とは
福井県にある名刹・永平寺。
その参道に足を踏み入れると、静かで荘厳な空気に背筋が伸びる思いがします。
永平寺の一番の魅力は、その空気感です。
境内には、樹齢700年を超える杉の巨木が立ち並び、その下一面にふっくらとした濃い緑の苔。
木漏れ日を浴びて立つ石仏。
境内を流れる川沿いを歩くと、不思議と雑念が消え心が軽くなります。
また、建物も日々の手入れで磨き上げられた床や柱、ほの暗く、近代文明の音が聞こえない室内。
その中を姿勢よく、流れるように歩く修行僧たち。
人や建物が醸し出す凛とした佇まいに、身も心も引き締まるような思いがします。
永平寺では、時間がゆったりと流れます。
じっくり建物内を回ると1時間以上、外もそぞろ歩くだけで30分はかかります。
ぜひ、スケジュールに余裕を持って、日本の禅の真髄に触れてみてください。
そもそも永平寺とは?
永平寺は、仏教の禅の宗派である曹洞宗の2つ大本山のうちの1つ。
(ちなみに、もう1つの総本山は、横浜の總持寺です。)
約1万5000ある曹洞宗寺院の信仰の源であり、福井県の福井市から東におよそ10kmの山の中にあります。
1244年、道元禅師によって、修行僧の坐禅道場として建立され、その2年後に名を永平寺と改めました。
建立から770年以上経つ現在も、約140人の雲水と呼ばれる修行僧が厳しい修行生活を送っています。
曹洞宗は、仏教の一派である禅宗のうちのひとつ。
坐禅の実践と行住坐臥(ぎょうじゅうざが)を重視しています。
行住坐臥とは、歩く・とどまる・座る・寝るを意味し、すなわち生活のこと。
坐禅と生活の中で心の安らぎを得ようということです。
俗世から遠く離れるために、当時の文化の中心であった京都から遠く離れた山の中に作られたのです。
回廊でつながる七堂伽藍(しちどうがらん)
永平寺に参拝する観光客は、参道から通用門を通って境内を見て回ります。
永平寺の中心となる法堂(はっとう)・仏殿・僧堂・庫院(くいん)・山門・東司(とうす)・浴室は、総称して「七堂伽藍(しちどうがらん)」と言います。
伽藍とは建物のこと。
七堂伽藍の配置は、坐禅を組んだ人の姿と言われています。
ご本尊であるお釈迦様が祀られている仏殿は心臓、一般のお寺で言うところの本堂にあたる法堂は頭に位置しています。
ちなみに、これらの七堂伽藍は回廊でつながっていて、雨の日でも濡れることなく見学できます。
また、七堂伽藍のうち、僧堂・東司・浴室は三黙道場と言われ、雲水たちは私語が禁じられています。
見学前に お参りのマナーを守りましょう
参拝者は通用門から入って境内を回りますが、お参りの前には、まず通用門前にある手水舎(ちょうずしゃ)で手を洗いましょう。
神聖な場所に入る前には、身をきよめなくてはなりません。
また身をきよめることは世界をきよめることに通じると考えられおり、大切な作法のひとつです。
手水舎で手を洗った後は、通用門から入り、拝観料を支払います。
通用門の奥には吉祥閣があります。ここは一般人が修行体験できる建物。
この中の一室で、参拝についての説明を聞きます。
その後、まず東司から長い階段を上って雲水たちの修行の場である僧堂へ。
僧堂から七堂伽藍の中心となる仏殿へ進み、中を通り抜けて案内に従って進むと、最も神聖な伽藍である承陽殿に至ります。
来た道を直進し、七堂伽藍の中で最も高所に位置する法堂へ。
法堂から台所である大庫院、さらに浴室へ続く長い階段があります。
浴室を曲がると、最後の伽藍である山門へとたどり着きます。
建物内にはところどころ立入禁止の場所があります。
たとえば修業の場である僧堂は、部屋の前は通れますが、中は入れません。
また立入禁止や撮影禁止は、その日の行事などによって変わります。
参拝についての説明のときにおしえてもらえるので、メモをとるなどしておきましょう。
最初に入った「吉祥閣(きちじょうかく)」で、雲水から参拝ルートについて説明を受けます。
日によって、撮影禁止になっている場所もあります。
必ずルールについて確認するようにしましょう。
一、境内は左側通行
一、修行僧を撮影しないこと
一、鐘や太鼓に触れないこと
一、外(回廊外)に出ないこと
一、酒を飲んで入らないこと
一、できれば参拝するときには脱帽すること
ほかにも一般的なマナーとして気をつけた方がいいこともあります。
一、携帯電話は電源を切るか、マナーモードにすること
一、永平寺の敷地内で喫煙しないこと
一、フラッシュ撮影はしないこと
一、修行僧の指示に従うこと
永平寺は雲水が修行する場であることを忘れず、迷惑をかけないように行動しましょう。
寺院内部の見どころ
まず最初に入るのは、傘松閣(さんしょうかく)。1930年に建てられました。
別名「天井絵の大広間」と呼ばれています。
ここは七堂伽藍には含まれません。
1階は参拝者の控室や研修の場、2階は156畳の大広間となっています。
畳の広間に入り、上を見上げると天井一面に絵が描かれています。
1930年当時の著名な日本画家144人による絵は全部で230枚。
時間があれば、一枚ずつ見て歩くことをおすすめします。首が痛くなるのが気にならないくらい、ずっと見ていられます。
中には花鳥風月以外が描かれたものが5枚あるのだとか。良かったら探してみるのも楽しいかもしれません。
傘松閣を出たら、東司(とうす)を通り過ぎ、僧堂へ向かいます。
東司は、お手洗いのこと。
ちなみにこの東司は、参拝客も使用することができます。
見た目は古いのですが、お手洗いのつくりは一般的な水洗です。
和式の方が数は多いですが、洋式もあります。
僧堂は、雲水が食事・睡眠をとり、坐禅を行う場所。
雲水が修行する場なので雲堂とも呼ばれています。 ここは、参拝客は中に入ることはできません。
雲水たちは、ひとり一畳のスペースで坐禅を行い、食事・睡眠をとっています。
参拝中は、法衣や作務衣をまとった雲水に行き逢います。
佇まいや所作が美しいので、思わず見とれてしまうほど。
しかし、どれほど美しくても写真に収めてはいけません。お忘れなく。
いよいよ、七堂伽藍の心臓部、仏殿です。
仏殿には、ご本尊である釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)が祀られています。
さらに、左には過去阿弥陀仏 ( あみだぶつ )、右には未来弥勒仏 ( みろくぶつ )、が配されいて、現在過去未来を表しています。
仏殿は、日によって撮影不可の場合があるので気をつけましょう。
仏殿を抜け、七堂伽藍の中で最も神聖な場所、承陽殿(じょうようでん)へ向かいます。
承陽殿は、道元禅師のお墓にあたります。永平寺歴代住職のお位牌なども祀られています。
ここも参拝客は入ることはできません。
ここで見るべきは、見事な彫刻です。
入口に施された龍の彫刻は、見つめていると動き出しそうな迫力です。
彫刻や欄間など、どの伽藍にも気づくと見入ってしまうものがあります。
自分だけのお気に入りを見つけるのもまた、楽しみ方のひとつです。
次は七堂伽藍の中で一番高い場所に位置する法堂(はっとう)へ。
ここには観音様が祀られていて、朝のお勤めや法要が行われます。
法要が行われているときなど、写真撮影禁止の場合もあるので注意してください。
伽藍内の豪華な飾りも目を引きますが、外にある濡縁に腰掛け、一息つくのもおすすめです。
特に秋は色づいた木々を眺めていると、心が落ち着きます。
大庫院(だいくいん)は台所です。
曹洞宗では日常生活すべて修行であり、食事もまた修行のひとつで、調理も雲水が行います。
食器の置く場所、置き方、順番、お箸の置き方など、すべて作法が決まっています。
また無言で静かに、かつ周りと同じスピードで食べなくてはなりません。
調理では、尊い命である食材を無駄なく使い切ることが大切。
米一粒さえも無駄にはしないという精神が身についていくのだそうです。
ちなみに大庫院の入口には韋駄天が祀られています。
できた食事を温かいまま僧堂へ運ぶことや、火事が起こった時に走って知らせることから祀られているようです。
大庫院の廊下にある、雲の形をした銅製の雲板。食事の準備の合図に鳴らされるものです。
僧堂の壁には木でできた版木(はんぎ)がありました。これも合図に使われるものです。
スマホに慣れた現代においても、永平寺では昔ながらの方法で連絡が行われているんです。
伽藍はもちろんすばらしいのですが、回廊の外の景色も見どころのひとつ。
風格ある建物や、季節の色をした木々に、思わず足が止まります。
浴室を通過し、いよいよ山門へ。
山門は永平寺の表門にあたります。 1749年に建てられた、永平寺内で一番古い建物です。
両側に四天王が安置され、まるで山門から入る悪いものを見張っているかのよう。
山門を日常的に通れるのは住職だけ。
もちろん参拝客が通ることはできません。
雲水でも、ここを通るのは、入門のときと去るときの二度のみなんです。
現在も、永平寺での修行を志願する者はここで入山の許可が出るまで待ちます。
志す者の修行への覚悟が問われるのです。
山門の入口には「吉祥額」と呼ばれる額がかかっています。
諸仏如来大功徳
諸吉祥中最無上
諸仏倶来入此処
是故此地最吉祥
仏様や如来様の大功徳はいろいろな吉祥の中で最上のものである
諸仏がともにここに来たので、ここを最も吉祥の地とする
というようなことが書かれています。
自然豊かで美しい10万坪の境内
七堂伽藍を巡った後も、まだ見どころは続きます。
通用門を出て左に進むと、唐門(からもん)が現れます。
太い杉の老木が立ち並ぶ中、まっすぐに伸びる苔むした石段。
その先には菊花紋があしらわれた門扉があります。
この唐門は、かつては皇族の入山時や貫首就任時のみに開門されていましたが、2016年からは大晦日に開放されています。
唐門の右手に流れる永平寺川沿いに道を上流に向かって進むと、左手に見えてくるのが玲瓏の滝。
雨が降った翌日は水量も多く、落差15mもあるので落ちた水が霧のように立ち上ります。
暑い季節だと、とても気持ちいいです。
さらに進んだ右手には寂光苑があります。
山の中へと進む階段があり、愛宕山へ登ることができます。
山頂の愛宕観音堂までは約30分。
参道には観世音菩薩像が33体祀られています。
山の中腹や山頂からは、七堂伽藍が一望できるそうです。
低い山ですが険しい場所もあるので、登山用の靴で登りましょう。熊よけの鈴もお忘れなく。
寂光苑内はマムシ注意の看板があるので、サンダルはやめておきましょう。
四季折々の美しさ
今回訪れたときは、まだ紅葉が始まったばかりでした。
11月に入ると紅葉した葉の赤や黄色が、杉の緑に映えます。
秋の永平寺の美しさを満喫したいのであれば、11月をおすすめします。
境内を歩くだけでなく、回廊の窓や伽藍の開いた戸から見る景色は四季折々の美しさがあります。
春は道元禅師も好んだ紅梅が咲き、夏は青々とした木々が生い茂り、秋は紅葉、冬は雪が深々と降り積もります。
人気は秋の紅葉シーズンですが、冬もおすすめです。
白い雪と厳しい寒さが、厳かな空気感をより引き立てます。
足元から冷えるので、暖かい服装で参拝しましょう。
でも、どんな季節でも永平寺の一番の見どころは、早朝に行われる朝課(朝のお勤め)。
5~10月は朝4時頃から、11~4月は朝5時半頃から始まります。
張り詰めた空気の法堂に響く、修行僧たちの読経は迫力と緊張感に満ちています。
朝課を見学したいときは、事前予約が必要です。
日によって時間が変わるため、前日17時前日17時までに受付(総受処:0776-63-3102)へ参加希望を伝えること。
そうすると翌日の開始時間をおしえてもらえます。
当日は、朝課開始時間の40分前までに受付へ集合しましょう。
ただし、県内に宿泊している人限定となります。
さらに、ひとり1,000円くらい献香料が必要です。
車で行く場合は、永平寺半杓橋すぐ近くのコインパーキングが利用できます。
一般的な拝観は、8時半からなので、他では見られない永平寺の姿を目にすることが出来ますよ。
じっくりと見て回るためにも、できれば平日の朝一番に訪れたいところ。
10時くらいまでであれば、誰もいない伽藍で静かに過ごせるときもあります。
禅の精神世界がそのままそこにあるかのような、静謐な空間を、ぜひ訪れてみてください。